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劇団SPAC『ばらの騎士』演出:宮城聡・寺内亜矢子

SPACの新作演劇『ばらの騎士』を観劇しました。
『ばらの騎士』は、
フーゴ・ファン・ホーフマンスタールが戯曲を書き上げ、
リヒャルト・シュトラウスが作曲した不朽の名作オペラ作品とのことですが、
オペラについては全く無知なので今回も事前情報なしの観劇です。

上演された物語はとても楽しい喜劇ですが、
ところどころ語られる言葉は深く胸に残りました。

30歳の元帥夫人と不倫の恋に浸る17歳の青年貴族オクタヴィアン。
元帥の留守中に内緒でお泊りしラブラブな夜を過ごした翌朝、
夫人の従兄であるオックス男爵が、
結婚予定の花嫁に”銀のばら”を届ける役目の、
ばらの騎士の推薦を頼みにやってくる。
ふざけて女中に化けたオクタヴィアンを
本物の女性と思い込み口説く男爵。
夫人はばらの騎士にオクタヴィアンを推薦します。
真っ直ぐに元帥夫人を愛していると告げるオクタヴィアンに、
夫人はいつかこの恋は終わるのだと告げる。

銀のばらを持参したオクタヴィアンと、
花嫁となるゾフィーは出会った瞬間恋に落ちる。
男爵は裕福な家庭の花嫁ゾフィーの持参金が目当てで、
お金で爵位を買ったゾフィーの家も彼女のことも目下に見ているため、
結婚に夢を持っていたゾフィーは男爵の事が嫌いになり結婚を断る。
オクタヴィアンはゾフィーのため再び女中に化けて
男爵を罠にかけ結婚を破断にすることに成功。
けれどゾフィーはオクタヴィアンは元帥夫人のことが好きだと思い込み、
元帥夫人はオクタヴィアンにゾフィーのもとに行くよう促す。

元帥夫人、オクタヴィアン、ゾフィー、
それぞれの気持ちがとても伝わってきますが、
元帥夫人の心情に一番共感しました。
もう若くない自分と年若い恋人。
いつかもっと若く美しい女性のもとへ去っていくだろう彼のことを、
愛しながらも手放す決意をする夫人。
時間を止めたくても
手のひらからこぼれ落ちて行ってしまうのだと
語るシーンはとても心に残りました。

アフタートークで、共同演出の宮城さんと寺内さん、
作曲担当の根本卓也さんのお話を聞きました。

本来オペラは「歌」とオーケストラの演奏によって、
登場人物のセリフや想いを伝える劇作品なのですが、
今回のSPAC版『ばらの騎士』ではシュトラウスの音楽は使用せず、
新しい音楽の作曲を根本さんに依頼したそうです。
いわば日本で一番シュトラウスに詳しい人に、
シュトラウスを超える作品の依頼をしたということにかなり驚きました。
また、共同演出についてのお話も伺えました。
宮城さんが、オペラ版『ばらの騎士』をもとに脚本を書き上げ、
寺内さんが舞台上の役者さんの動き等の演出を担当されたとのこと。
見事な役割分担です。

オペラでは音楽のすばらしさが際立ち登場人物のセリフや心情が、
観客に本当には伝わっていないのでは
ということで根本さんは音楽をつけるにあたり、
「アンチクライマックスの連続」とおっしゃっていました。
音楽が静止した後に役者が大事な台詞を語り、
作曲したといえるかどうかの音もすべて厳密にスケジュールされたのだそう。
今回も素晴らしい演劇体験でした。

【ほし太の日向ぼっこ】

日時: 2024年01月10日 15:32