
初作家さんの作品ですが、
美容院で読んだ雑誌の書評を読んで興味がわきました。
「異類婚姻譚」で2016年に芥川賞を受賞された作家さんでした。
2編の物語が入っていますがそれぞれに独立した話でした。
「推子のデフォルト」は、
子どもを「等質」にすることが最高の教育とされる人気の幼稚園が舞台。
そこに娘を通わせる推子は、
手の甲、眼、耳、鼻、舌、にマイクロチップを埋め込み、
複数のコンテンツを同時に使いこなす。
何倍速もの複数の動画をみながら、音楽を聴き、
アロマの香りを感じて、舌に再現された味覚を楽しんでいます。
けれどもそれら複数の仮想コンテンツだけでは物足りず、
同じ幼稚園に通うオフライン志向のこぴくんママが、
子育てに悩む姿を見るのが最高のエンターテインメントとして、
何かと相談にのっています。
幼稚園の先生は、
「これからの時代、子供に必要なのが等質性」
どんな時代になっても「どんな環境でも生きていける力」
「仮想空間に居続けても、苦痛を感じない力」を育てるために、
日ごろからネット漬けの環境を整えるようこぴくんママに言います。
AIを「ええ愛」と呼び、子供の将来の夢は「ええ愛」になること。
等質化された子供はみな同じ絵を描き、自分と他人との区別も無くなり、
常に板と呼ばれるデバイスを見続けています。
こぴくんママはそんな環境の中で、
こぴくんだけを人間として育てることに何の意味があるのか?
という思いに至り・・・。
近未来が実際にこうなりそうな怖さがありました。
「マイイベント」は、
都内にある高層マンションの最上階に住む、
渇幸(かつゆき)と張美(はりみ)夫婦が主人公。
渇幸は、他人の不幸は蜜の味を体現しているような人物。
日ごろから防災用品の点検に余念がなく、
50年に一度の台風がやって来てワクワクが止まらない。
ところが一階に住む番場一家が避難してくることになり、
夫婦の日常が次第に壊されて・・・・。
登場人物に誰一人として共感できる人はおらず、
読んでいる途中も、読後も、あまりいい気分ではありませんでした。
そう思う自分自身にも、
多かれ少なかれその嫌な部分があるのかもしれないと思わされる一冊でした。
【ほし太の日向ぼっこ】