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月イチ歌舞伎『女殺油地獄』

今月のシネマ歌舞伎は近松門左衛門原作の『女殺油地獄』
人形浄瑠璃の演目として作られ、
近松が実際の事件をもとに書き上げたと言われています。
歌舞伎にも、映画化もされている有名なお話ですが私は初めて鑑賞しました。
今回は十代目松本幸四郎襲名記念公演を収録したものです。

後に凄惨な事件が起こることはわかっているので、
最初からドキドキしながら鑑賞しました。

前半は物語の主人公河内屋与平の人物像が丁寧に描かれます。
油屋の次男としてわがままに育てられ、
芸者遊びに明け暮れて借金を重ねている与平。
ついには家庭内暴力まで起こし遂に勘当されます。
同業の豊島屋の女房お吉は小さな娘を育てている人妻ですが、
弟のような与平の面倒を何くれとなく見ています。

勘当はしたものの、与平のことが気がかりな両親は、
お吉のところにやってきてお金と粽を与平に渡してほしいと頼みます。
両親も与平は困ったらお吉を頼ってくることがわかっています。
そんな親心にほだされて、与平にお金を渡す約束をするお吉。

ほどなくしてやってきた与平は、
お吉にさらなる借金を申し込み断られます。
不義となったつもりで貸せと無理難題を言っては断られ、
次第に狂気な様相を見せる与平に気づかず、
最後に商売に使う油を貸せと言われ、
それならばと背中を見せたお吉に襲い掛かる与平。
娘が不憫だから助けてくれと頼むお吉。
油まみれになりながらお吉を殺し金を懐に逃げる与平。
何とも言えない修羅場が展開されます。

与平には一つも共感するところがありませんでした。
その後のことは描かれていませんが、
おそらく与平は捕まり打ち首となり、
お吉の残された幼い娘、与平の両親と妹も、
みな不幸な人生を歩むことになったでしょう。

このような話はいつでも起こりうることで、
そこにこの物語の恐ろしさを感じました。
様々に変わる与平の表情を幸四郎さんがとてもリアルに表現されていました。
シネマ歌舞伎だからこそみられる迫力あるアングルもあり、
お吉役の猿之助さん共々役者の力量が素晴らしかったです。

【ほし太の日向ぼっこ】

日時: 2019年11月15日 15:21