
SPAC冬の特別公演『綾の鼓』を静岡芸術劇場で鑑賞しました。
この作品は、能の「綾鼓」と三島由紀夫の「近代能楽集」をもとに、
フランスで活躍されている二人の日本人、
振付師・ダンサーの伊藤郁女(かおり)さんと、
三島由紀夫とも交友がありピーター・ブルック氏と長年創作を共にしてきた
笈田ヨシさんによって創作されたダンス・シアターです。
ダンスシアターとは、
ダンスと演劇の境界線を取り払った舞台芸術の様式で、
昨年の『アヴィニョン芸術週間』で絶賛されたこの作品を、
今回が日本初上演で鑑賞できたことがとても贅沢で幸せな時間でした。
劇場の掃除人である年老いた男が美しいダンサーに恋をします。
ダンサーは老人に鼓を渡し
「この鼓を鳴らすことができれば思いを叶えましょう」と言います。
老人は一生けん命に鼓を打ちますが鼓には絹が張られていて音は鳴りません。
騙されたと悟った老人は自ら命を絶ちダンサーに憑りつきます。
若いダンサーは、ちょっとした思いつきか悪戯心で老人を誘って踊ります。
老人にとっては今までの生涯で一番の楽しい時間だったと思いを伝えます。
彼女にとっては思いもしないことだったとはいえ、
断るかわりに鼓を渡したことで老人はさらに夢をみてしまいました。
それが悲劇へとかわります。
笈田さんからは、その佇まいだけで人生の重みと深さが感じられました。
伊藤郁女さんの素晴らしいダンスと、
二人の、最初はほのぼのとした楽しいダンス、
のちに緊迫したシーンへと、
舞台上の空気が変化していく様を目の前で鑑賞でき、
吉見亮さんの演奏も息がぴったりと合い素晴らしかったです。
上演時間が60分とは思えないほど濃密な時間を過ごせました。
【ほし太の日向ぼっこ】