
演劇祭の一番の楽しみがSPACの新作『マダム・ボルジア』でした。
ビクトル・ユゴーの原作を元に、中世のイタリアを舞台としたこの物語を、
宮城芸術総監督が戦国時代の日本に移し、
駿府公園という特別な場所にあわせて創作した野外劇です。
公演日時は5月2日~5日ですが、
そのうちの3日、4日、5日の3回の観劇をすることにしました。
まず最初の日、いつものように入場前に並んでいると、
備後(の国)と書かれたカードをいただきました。
他に、日向、三河、遠近江、常陸などの国があり、それぞれに一人領主様がつきます。
入場と、途中の移動はその領主様についていくようにとの注意事項がありました。
今回の演劇は2部構成となっていて、
最初が水の都のお祭り広場、その後高峰の国へと移動するとのこと。
前半がお祭り会場というだけあって、色とりどりの衣装に身を包んだ俳優さんたちと、
お囃子隊が気分を盛り上げ、始まる前からとてもワクワクしました。
あらかじめ原作を読んでいたので、原作にかなり忠実(セリフも)でしたが、
もちろん原作など何も知らなくても充分楽しめました。
劇中劇あり、客席の後ろから前から横から俳優さんが登場し、
まさかのトラック出動(笑)もあり、最初から最後まで楽しくてあっという間の2時間でした。
世に名だたる悪女のルクレツィアが、幼いときに生き別れた息子を探しあて、
一途に愛する姿には胸を打たれました。
また、ルクレツィアの夫アルフォンソ候の、妻への愛情の裏返しの嫉妬心と冷酷さ、
息子ゼンナロの母親を一途に慕う姿。
原作を読んで知っていましたが、
実際に目の前で俳優さんが演じる姿をみると様々な感情が沸き起こりました。
宮城さんがリーフレットの中で、
ユゴーの演劇では『感情』が何よりも大きなエンジンとして筋を運び、
中でも圧倒的に大きい役割を果たすのが「恋情」だと書いていました。
母親が息子を思う気持ちと、息子が母親を思う気持ちのどちらも恋情で、
「愛」と「恋情」の違いは「恋情」は必ず「相手を美化する」ことを伴うのだと。
だからこそ、ゼンナロは清らかな母親像を胸に抱きルクレツィアを憎み、
ルクレツィアはゼンナロのために、良き人になろうとします。
その反面、自分を辱めた相手には情け容赦なく復習しようとする。
そんな相反する心を持つのも人間だからこそなのでしょうか。
最後は悲劇的な結末となりましたが、
暗転後、いち早く立ち上がったゼンナロ役の大内さんが、
ルクレツィア役の美加理さんに手を差し伸べた姿を見て、
まるで天国へ行った二人を見るような気持ちになりとても嬉しく思いました。
3回の観劇を通して、
二日目は雨、三日目は400番台の入場と観劇場所も状況も違い、
毎回新しい発見と感動があり、それぞれに楽しめました。
【ほし太の日向ぼっこ】